エンタープライズ(大企業)を対象としたマーケティングは、一般的なBtoB領域と比べて意思決定プロセスが多層化しやすく、リードタイムも長くなる傾向があります。
すでに成果を上げている企業もありますが、意思決定プロセスが多段階になりやすいことや、厳格なセキュリティ基準、複雑な社内承認フローなど、大企業特有の条件が施策設計に影響を及ぼします。
こうした前提を踏まえると、より戦略的な設計や長期的な視点が不可欠になります。本記事では、エンタープライズ企業へのアプローチで成果につながりやすいマーケティング施策を体系的に整理します。
エンタープライズ企業攻略が難しい理由

まず前提として、エンタープライズ企業とは、自社内に複数の部署や大規模な組織構造を持ち、意思決定に関わるステークホルダーが多い企業群を指します。一般的には従業員数・売上規模が大きく、情報システムや法務体制も整備されており、サービス導入時には細かな審査や社内調整が必要とされるケースが多い企業です。
こうした背景もあり、エンタープライズ向けのマーケティングには、中小企業向けとは異なる特有のハードルが存在します。
商談化までに時間を要する構造や、多層的な意思決定フロー、導入可否に関する厳格なチェックプロセスなど、企業規模が大きくなるほど検討に慎重になり、プロセスも複雑化します。
ここでは、エンタープライズ攻略が難しい理由について整理します。
意思決定プロセスが多層化しておりリードタイムが長い
エンタープライズ企業は、事業規模が大きいほど意思決定に関わるステークホルダーの数が増え、購買プロセスが多段階になります。現場担当者、部門責任者、情報システム部門、経営層など、各レイヤーごとに確認・合意が必要となるため、最初の接触から導入可否の判断までに長い期間を要します。
さらに、組織全体の運用ルールや既存システムとの整合性を慎重に検討するケースが多く、決裁までのリードタイムは中小企業と比較して格段に長くなる傾向があります。この構造的な特性が、エンタープライズ向けリード獲得を難しくしている要因のひとつです。
導入可否に関する社内承認フローが複雑
大企業では、サービス導入に際して複数部門の承認を得る必要があります。購買部門や情報システム部門、経理部門など、独自の承認フローが存在するため、担当者が「興味がある」「導入メリットがある」と感じても、すぐに検討が進むとは限りません。
また、部門間で判断基準が異なるケースも多く、予算、運用負荷、既存環境との適合性、リスク評価など、さまざまな観点からのチェックが求められます。そのため、問い合わせを獲得できても、社内調整に時間がかかり、商談化までのプロセスが長期化しやすいのが特徴です。
セキュリティ基準・法務審査が厳しく、選定の基準が高い
エンタープライズ企業は、自社で扱うデータ量や社会的責任の大きさから、セキュリティの安全性を最優先に考えています。サービス導入時には、情報管理体制、データの取り扱い、認証方式、ログ管理、外部委託先の管理体制など、細部にわたるセキュリティ要件への適合が求められます。
加えて、契約プロセスでは法務部門による詳細な審査が行われ、利用規約やデータ保持ポリシー、サポート体制などの確認に時間を要します。
こうした高い基準をクリアする必要があるため、新規ツールやサービスが簡単には採用されにくく、結果的にリード獲得から導入決定までのハードルが上がることにつながります。
エンタープライズのリード獲得を成功させるための5つのマーケ施策

エンタープライズ企業にアプローチする際は、一般的なリード獲得施策をそのまま適用するだけでは成果に結びつきにくい場面が多くあります。
意思決定の長さやセキュリティ基準の厳しさなど、特有の条件に合わせたマーケティング設計が欠かせません。
ここでは、大企業をターゲットとする際に効果的な5つの施策をわかりやすく整理します。
施策①:広告・SEOで“認知”と“比較検討”のフェーズを明確化
エンタープライズ企業は、まず「自社に関係のあるサービスかどうか」を慎重に判断します。そのため、広告やSEOでは、認知フェーズ向けと比較検討フェーズ向けの情報を明確に分けることが重要です。
認知フェーズでは、課題提起や業界トレンド、成功事例の紹介など、興味の入り口をつくる情報が有効です。
一方、比較検討フェーズでは、導入メリット、機能、事例、費用感など、担当者が社内説明に使いやすい内容が求められます。
特にポイントは、想定するターゲット部門(情報システム部門・現場部門・経営企画など)別に刺さる切り口で情報設計をすること。
検討初期から導入検討段階まで、どのフェーズの担当者が読んでも必要な情報にたどり着ける構造がエンプラ向けでは重要になります。
施策②:EFO・UI・LPOで、情報取得の心理的ハードルを下げる
エンタープライズ企業は、正式な商談に進む段階でより慎重な判断を行う傾向があります。ただし、検討初期の情報収集においても、担当者が行動を起こしやすい導線を用意しておくことは依然として重要です。
特に「まずは情報だけ確認したい」という段階では、いきなり問い合わせフォームに誘導されると行動が止まりやすくなります。
そのため、比較的軽いアクションでアクセスできる“入口の選択肢”を複数整えておくことが効果的です。
具体例としては、
- 資料閲覧ページ
- ホワイトペーパーのダウンロード
- 導入可否を簡単に確認できるチェックリスト
- 短い導入事例PDF
など、正式な問い合わせよりも心理的負荷の低い導線が役立ちます。
さらに、
・EFO(入力フォーム最適化) による入力負担の軽減
・UI改善 による情報の見つけやすさ向上
・LPO(ランディングページ最適化) による導線設計の整理も、エンタープライズ領域では有効です。
LPOでは、担当者が求める情報に最短で到達できるように、
- ファーストビューで「誰向けの価値か」を明確化
- 導入事例や実績を適切な位置に配置
- CTAを段階的に設け、いきなり問い合わせさせない構造にする
といった改善を行うことで、検討初期〜比較検討段階の離脱を大幅に減らせます。
これらの工夫により、担当者はストレスなく必要な情報にアクセスでき、結果として商談プロセス全体が滑らかに進む土台が整います。
施策③:MA・SFAを活用して、フェーズに応じた長期ナーチャリング体制を構築する
エンタープライズ領域では、リード獲得から商談化までに数カ月〜1年以上かかるケースも珍しくありません。
そのため、「接点がある時だけ追いかける」のではなく、検討フェーズごとの状況を把握し、継続的に関係を育成する仕組みが必要になります。
MA(マーケティングオートメーション)を活用することで、
- 初回訪問 → 情報収集中 → 比較検討 → 商談中など、顧客の状態をスコアリングで可視化
- 各フェーズに合わせて、
・業界課題の記事(初期)
・事例やチェックリスト(比較検討)
・導入プロセスの説明資料(商談前)
など 必要な情報を適切なタイミングで提供 - 一定期間反応がない見込み顧客を自動的にリマインド
といったように、顧客管理とコミュニケーションの「抜け漏れ」を防げます。
さらに、SFA(営業支援ツール)と連携させることで、
- MAで温度感が上がったタイミングを営業が即キャッチ
- 商談中のやり取り・資料送付履歴を一元管理
- マーケと営業の間で「どのフェーズの誰に何を届けたか」が共有され、次の一手が打ちやすくなる
といった形で、部門横断の戦略的なアプローチが可能になります。
施策④:IS部隊との連携で初期接触スピードを高める
営業活動全般において、最初の接触のスピードと質は相手企業の信頼形成に強く影響します。特に大規模検討が前提となるエンタープライズ領域では、その初動の印象が後続のコミュニケーションに大きく作用します。
問い合わせや資料請求が入った際、
- 営業につながるまでに時間がかかる
- 部門間で情報共有が遅れる
という状況では、せっかくの関心が離れてしまうこともあります。
そこで重要になるのが IS(インサイドセールス)部隊との連携。
マーケで獲得したリードを、ISがすぐにフォローし、確度を高めながら営業へ橋渡しする体制を作ることで、初期段階からスムーズなコミュニケーションが可能になります。
エンタープライズでは、初期対応のスピードが誠実さや信頼性として評価される傾向もあり、早い段階での丁寧なコンタクトが大きな価値を持ちます。
施策⑤:有人接客・ウェビナー・顧客事例など“信頼醸成”コンテンツの強化
エンタープライズの最終判断にもっとも影響するのは、「この会社は信頼できるか?」という観点です。
そのため、信頼醸成につながる施策の強化が必要になります。
たとえば、
- 営業担当との対話(有人接客)
- 導入事例の充実
- 業界向けウェビナーの開催
- プロダクトの思想やサポート体制を見せるコンテンツ
などは、エンプラ担当者の不安を解消し、判断材料を揃える役割を果たします。
また、オンラインだけではなくオフラインのイベントや相談会など、多層的な接点を用意することで、検討の後押しとなる人となりや企業姿勢を伝えることが可能です。
エンタープライズマーケティングで成果を出すための視点

エンタープライズ向けのリード獲得では、個別施策だけを積み上げても十分な成果を得ることが難しい場合があります。理由は、大企業ならではの意思決定の長さや社内調整の多層構造、慎重な評価プロセスなどがあるためです。
そのため、個別のタッチポイントを最適化するだけでなく、どのような視点で全体を設計するかが成果を左右します。
ここでは、エンタープライズに強いマーケティングへと進化させるために重要な3つの観点を整理します。
短期的CVよりも関係資産の蓄積に重きを置く
エンタープライズ企業は、問い合わせや商談に進んだ後も意思決定プロセスが長く、即時の導入につながるケースは多くありません。
そのため、短期的なCV(問い合わせや資料請求)だけを成果指標とすると、実態とズレが生じやすく、効果が見えづらくなることがあります。
重要なのは、「すぐに導入判断はしないが、潜在的に関心を持っている企業」との関係を継続的に積み重ねていくこと。
たとえば、
- 業界トレンド記事
- 導入事例
- ホワイトペーパー
- ウェビナー
など、各フェーズに応じたコンテンツで“接点を持ち続けることで、担当者の心象を徐々に高めていく必要があります。
短期成果ではなく、継続的な関係構築を価値として捉える姿勢が、エンタープライズ攻略の基盤になります。
専門性・透明性・信頼性の高い情報提供が購買行動を左右する
エンタープライズがサービスを選定するとき、もっとも重視するのは「信頼できるかどうか」です。その判断は、単に製品の機能だけでなく、提供する情報の質によって大きく左右されます。
求められる情報は、
- 技術的な裏付け(専門性)
- プロセスやデータの扱い方の明確化(透明性)
- サポート体制や実績の提示(信頼性)
- 会社のガバナンスや運営体制に基づく「企業としての信頼性」
といった判断の根拠になる情報です。
これは、担当者が社内で説明する際の資料としても活用されるため、曖昧な表現や不十分な情報では検討が進みにくくなります。
つまり、エンプラ向けでは専門性があり、社内稟議にも耐えうる情報設計が不可欠です。
多接点・長期的なコミュニケーション設計が商談化率を高める
大企業を動かすには、1つのコンテンツや施策だけで完結することはなく、複数の接点を積み重ねていくことで商談に近づいていきます。
たとえば、
- 記事 → メール → ウェビナー → 事例 → 個別相談
というような段階的なタッチポイントの設計が重要です。
各接点には役割があり、
- 興味を持ってもらう
- 疑問を解消する
- 導入後のイメージを具体化する
といったステップを踏むことで、商談に進む確度が高まります。
このように、断続的ではなく、連続的にコミュニケーションを育てる設計が、エンタープライズの商談化率を大きく左右します。
まとめ:エンタープライズ攻略は長期的な関係構築が鍵になる

エンタープライズ向けのリード獲得では、即時の成果だけで判断するのではなく、長い検討期間を前提に、関係性を積み重ねていく姿勢が欠かせません。複数の接点を丁寧に重ね、自社の価値を一貫したストーリーとして届けていくことで、商談化の確度は着実に高まっていきます。
また近年は、問い合わせ前の段階で抱えている疑問や不安を早期に解消するアプローチにも注目が集まっています。検討フェーズの理解、社内承認の過程、比較検討のポイントなどを整理し、担当者が前に進みやすい情報設計を行うことが重要です。
エンタープライズを含むBtoB領域で、成果につながった問い合わせ前接点の作り方や、実際の改善プロセスについては、こちらの記事で詳しく解説しています。自社の施策を整理する際のヒントとして活用いただけます。
さらに、OPTEMOではこうした問い合わせ前の接点を強化するための仕組みや事例も公開しています。より具体的な改善策を知りたい方は、資料をご覧いただくと検討の手がかりになります。






